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農業最前線ニュース

父親から子供に分割払いで農業用倉庫を売却すれば、減価償却費を大きく計上できます。

投稿日:2019.04.26

1.親子間での貸し借りは無料が多い
30年以上も個人事業主として農業を行ってきた父親が高齢となったことで、事業主を廃止するとともに生計一の子供が農業を継ぐことにしたとします。
ここで「生計一」とは同居して、生活費の財布が一緒という意味です。
子供にはお金がないため、父親との間で「使用貸借契約」を締結して、事業で使われていた農業用の倉庫や車両を無償で借りることにします。
農業では親子間が無償で物を貸し借りする行為がよく見受けられます。
このとき子供が実際に農業で使っている倉庫と車両の減価償却費を経費に計上できないと不公平です。
そこで所得税法では無償で使っていたとしても、生計一の父親が所有する倉庫と車両の減価償却費について、子供の農業所得の経費に計上してもよいことにしているのです。
ところが問題は、その減価償却の方法となります。

実は平成19年4月以降に購入した固定資産については新定額法で減価償却費を計算できることになりました。
下記はそれぞれの減価償却費の計算式となりますが、旧定額法は90%を掛けているため、新定額法に比べて減価償却費の金額が小さくなります。
旧定額法 取得価額×90%×定額法の償却率
新定額法 取得価額×定額法の償却率

2.倉庫は定額法での減価償却が強制される
先ほどの父親が平成10年3月31日以前に倉庫を建てていたとすると、倉庫の減価償却の方法は旧定率法を選択することができます。
旧定率法は新定額法よりも減価償却費が大きくなり、有利です。
つまり、「旧定額法<新定額法<旧定率法」という関係になっているのです。
ところが今回は父親が無償で子供に貸していることから、有利な旧定率法は選択できません。
子供が農業所得で経費に計上できるのは、強制的に最も不利な旧定額法による減価償却費とされてしまうのです。
これを回避するために、父親が子供に倉庫を売却することにします。子供にお金がなければ分割で支払えばよいのです。
これで子供は平成19年4月以降に中古で倉庫を購入したとして新定額法による減価償却を計上できることになります。
なお、倉庫の減価償却費について、平成10年3月31日以降に購入した場合には、定率法は選択できません。

3.車両は定率法での減価償却が選択できる
農業で使っている車両についてはほとんどの場合、父親が平成19年4月以降に購入しているはずです。
このとき無償で子供に貸すと新定額法による減価償却が強制されてしまいます。
ただし、車両については新定率法も選択できるため、新定額法であっても不利です。
このとき、「旧定率法<新定率法」となるため、最も有利な減価償却の方法が使えないことになります。
実際に生計一の妻が所有する車両の減価償却の方法について争った裁決事例があります。

国税不服審判所 平成27年9月2日 裁決
○夫(納税者)は医療コンサルタントとして個人で開業していて、生計一である妻が所有するベンツを事業で使っていた。
納税者は車両については定率法を採用すると税務署に届け出ていたことで、定率法で減価償却できると主張した。
○税務署は夫が無償で使っていることから、定額法での減価償却費の方法を採用すべきと主張した。
○結局、納税者が負けて定額法が強制適用された。

これを避けるために倉庫の場合と同じで、父親が所有する車両を子供に売却して名義を変更しましょう。
そのあと、子供が税務署に新定率法で減価償却を行うことを届け出れば認められます。
なお倉庫や車両を子供といくらで売買すればよいのかという疑問を持つ父親もいます。
これに関しては、父親の農業所得を申告する確定申告書に記載されている未償却残高の欄にある金額で売買すれば、基本的には問題ありません。
これにより父親には売却益も発生しないことになり所得税もかかりません。

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