「農地所有適格法人を作る理由.jp」では、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)の新規参入・設立のメリット、資金調達、補助金・助成金の申請、法人化した後の相続・譲渡、節税など、農業ビジネスの仕組みをわかりやすく解説しています。

農地所有適格法人(旧:農業生産法人)設立コンサルティング | 日本中央税理士法人 Tel. 03-3539-3047 担当:青木

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相続の問題を解決しておく

農地の相続税と贈与税は免除されるのが、原則

父親が個人事業主の農業者の場合、そのまま、相続が発生すると、農業で使っていたトラクター、トラック、ビニールハウスなどの生産設備が相続財産となります。
また、雇用契約は、原則、農業を継ぐ子供が自動的に引き継げます。ただ、スーパーとの販売契約は、契約内容によっては、自動的に引き継げないこともあります。

一方、父親が、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)を設立していれば、子供が、その株式を相続するだけで、すべての契約を、無条件に引き継げることになります。

ただ、そもそも遺産分割でもめると、農業を継ぐどころの問題ではなくなります。
あなたは、

「あれほど仲が良い子供たちが、もめることなんて、あるのか?」

と思うかもしれませんが、家庭裁判所が公表しているデータを見ると、相続で争っている事件は、年々、増えているのです。
あなたの所有するすべての農地が市街化調整区域にあれば、価値も低く、争う原因にはならないかもしれません。
ところが、一部でも市街化農地になっていれば、宅地への転用も農業委員会への届出だけで行えるので、一気に価値は上がってしまいます。
財産が増えれば、争う確率は、高くなります。
では、この遺産分割の問題を解決するには、どうすればよいのでしょうか?

最も簡単な解決方法は、父親が、遺言書を作成しておくことです。
相続人には、遺留分という最低限の取り分はありますが、お金で精算すればよく、遺言書によって、指定した子供が、すべての農地を継ぐことはできてしまいます。
さらに、もう一歩進んで、父親から子供に生前に贈与するという方法があります。
それでも、遺留分が請求される可能性は残りますが、農地を1人の子共に生前に引き継がせてしまえば、他の兄弟が文句を言える範囲はかなり狭まります。
それだけではなく、生前に子供に贈与することで、父親の財産が減り、相続税の節税対策にもなるのです。

もちろん、父親が生前に、自分のすべての財産を子供に贈与することは現実的ではないでしょう。

そのため、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)の株式と農地だけは、生前に贈与しておき、それ以外の財産は遺言書で相続させる人を指定するというのが、一般的な方法です。

このとき、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)の株式は、それほど価値がなく、ほとんど無税で贈与できるはずですが、農地に関しては注意すべきことがあります。
父親から子供に贈与するときには、相続税を計算するときと同様に、農地は路線価、もしくは「固定資産税評価額×倍率」で評価して、贈与税を計算します。

市街化調整区域の農地であれば、「固定資産税評価額×倍率」の評価となり、そもそも田や畑の地目であれば、固定資産税評価額も高くないため、贈与税の心配は、それほどありません。
一方、市街化区域の農地となると、ほとんどが路線価での評価となり、びっくりするぐらいの贈与税がかかってしまうはずです。
そこで贈与をためらったとしても、同じように評価して計算される相続税が高額となるだけで、同じことです。
とすれば、相続税よりも、贈与税を支払う選択をすべきです。
理由は、相続税を計算するときの農地は、父親が亡くなる日の評価となります。
子供は、当然ですが、父親も、自分の亡くなる日を選択することなどできません。
たまたま、何かの理由で、農地の価値が上がっていることもあります。
そのあとの遺産分割で、家族でもめているうちに、その農地の価値が下がることもあります。
それでも、高い価値の農地で相続税は計算されてしまうのです。
平成に入ってから、市街化区域の農地の価値は上がったり、下がったりを繰り返しています。
そのため、農地の価値が高いか、低いかは、運任せになってしまいます。

一方、贈与であれば、自分たちで贈与する日を選択することができるのです。
しかも、どの農地を贈与するのか、誰に、贈与させるのかも、契約さえすれば、誰にも文句を言われずに、自由に決定できます。
贈与であれば、一番、節税になる方法で、子供に農地を継がせることができるのです。

そして、政府としても、農業を継ぐ子供がいるのに、農地に対する贈与税や相続税が高くて継がせることができないことは、政策上、好ましくないと考えています。
農業を継がない他の子供と争って、農地の一部だけが売却されて細分化されてしまうと、収穫量が足りなくなり、農業を継いだ子供の採算も取れなくなります。
そこで、父親が生前に、農業を継ぐ子供へ農地(三大都市圏内は生産緑地指定が必要)をすべて贈与するならば、その贈与税を納税猶予する制度を作ったのです。
(※生産緑地指定とは、市区が指定すると、農地としての適正な管理、保全が義務付けられ、建築や宅地の造成などの農地以外の利用ができなくなる制度のこと)

「猶予するってことは、いつかは、贈与税を支払うことになるんじゃないのか?」
と心配することはありません。
父親の相続が発生すると、この贈与税が猶予ではなく、免除されるのです。
その子供が農業を続けるならば、相続税もかかりません。
ただし、そのときまでに、子供が農業を廃業したり、農地の20%超を売却や転用すると、納税猶予の特例は消滅して、贈与税を支払うことになるので、注意が必要です。
その瞬間に、それまで猶予してもらっていた間の利子税もかかるので、子供が農業を続けない可能性があるならば、納税猶予の特例は使わない方がよいでしょう。

もし途中で、農地を贈与された子供が病気となり、農業を継続できなくなった場合には、他の人に農地を貸せば、贈与税の納税猶予は続くことになっています。
そして、もし贈与された子供が、病気で先に亡くなった場合でも、納税猶予された贈与税は免除されることになっています。

また、すでに相続が発生してしまった場合でも、農地を継いだ子供が農業を続けるならば、相続税を納税猶予してくれる特例もあります。
ただ、遺言書、または遺産分割協議書で、農地を継ぐ子供を、相続が発生してから10カ月以内に決めなければ、この特例は使えなくなります。
最初に言ったとおり、生前に父親が子供に贈与しないならば、遺言書を作成しておくべきなのです。

納税猶予の仕組み

納税猶予の仕組み

そこのように、農業を保護していく制度が、贈与税や相続税にはあるのですが、適用するための要件は、少し複雑です。

もし要件から外れてしまうと、多額の税金がかかってしまいます。
ぜひ、当社のような税理士法人にお問い合わせいただき、慎重に、この制度を適用できるのか、その場合のリスクはなにかを、検討すべきです。
リスクが大きければ、特例を使わずに、贈与税や相続税を支払ってしまうという方法もあります。
その場合でも、できるだけ節税対策を行うことで、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)の資金繰りまでおかしくならないようにしなくてはいけません。

当社は、税理士が多数在籍する税理士法人です。
相続税や贈与税にも精通していて、農業者の申告も北海道から、鹿児島まで、何十件も行ってきました。
納税猶予の申請、物納の申請、延納の申請などの経験も豊富です。
また、税務申告だけではなく、家族が争わないための生前対策のご相談にもお受けしております。
「これから、相続について、家族で話し合いを持とう」と思っている方から、「すでに相続が発生して悩んでいる」という方まで、今すぐ、当社まで、ご相談ください。

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事例から学ぼう

賢治さんの父親は、先祖代々から市街化区域にかなり広い農地を相続してきました。
高齢となったことで、長男の賢治さんが、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)を設立して、父親から農地を借りて農業を行っています。
賢治さんは、姉と妹がいる3人兄弟でしたが、父親は長男である賢治さんに農地も含めて、すべてを相続させようと考えていました。
ただ、姉と妹に何も相続させないわけにはいかず、農地の一部を売却して、1億円の貯金を作り、それを5000万円ずつ相続させようと考えていたのです。
父親は生前に、広い農地を路線価で計算すると、4億円にもなるので、相続で争う可能性があると周りの人たちから助言を受けていました。
ただ、父親は、昔の子供たちが仲の良かった時代の思い出が強く、子供たちが争うなどという考えはまったく思い浮かびませんでした。
そのあと、妻(子供から見ると、母親)が先に亡くなり、父親もそのあとを追うように亡くなりました。
それでも、父親は、農地を長男の賢治さんに、5000万円ずつを姉と妹に相続させるという遺言書を作成していたのです。

賢治さんは遺言書を使って、農地を相続し、相続税の納税猶予も申請して、農地所有適格法人(旧:農業生産法人)で農業を続けていました。
ところが相続が発生してから1年が経つころ、姉と妹は、賢治さんに自分たちの遺留分を請求してきたのです。
農地を路線価で評価すると4億円でしたが、実際に売却するとなると、市場での時価は5億円と試算されました。
相続で争うと、路線価ではなく、市場の時価をもとに話し合いを行うことになります。つまり、相続財産の合計は6億円となるのです。
そのため、姉と妹の2人の遺留分は1億円ずつとなります。
賢治さんは根気強く、それから何度も姉と妹と会って説得しましたが、いさめる人もおらず、そのあと裁判になったのです。
父親の相続が発生してから4年が経ち、結果的に、姉と妹の1億円の遺留分は認められてしまいました。
すでに5000万円は相続しているため、長男Gさんが、それぞれに残りの5000万円を支払うことになったのです。
この時点までに、農業のために生産設備を買い、運転資金に自分のお金を使っていたGさんに、1億円もの貯金があるはずがありません。

そこで、農地の一部を売却することになったのですが、その部分に関する納税猶予の特例は取り消され、それまでの利子税も支払うことになりました。
農地を売却すると、ほとんどが売却益となり、20.315%の所得税もかかりました。
遺産分割がすべて終わったあとには、農地の半分以上を売却することになり、現在の農作物の収穫量では採算も取れなくなってしまいました。

もともと、農地を生前に贈与しておき、1億円の現金は生命保険として長男の賢治さんに相続させれば、姉と妹の遺留分の金額を抑えることができました。
そして、生前に遺留分を計算しておき、賢治さんも足りない分は貯金しておけば、このような事態を避けることができました。
相続や贈与の正しい知識を持ち、生前に実行に移すことは、本当に大切なことなのです。